
西晋時代に書かれた右の尺牘「平復帖」(23,8×20,5cm・北京故宮博物院蔵)は多くの書家の憧れでした。これを書いたのは陸機(261~303)で、現存の真蹟で 肉筆で書かれた最古のものです。9行86字の小さなものですが、同時期に書かれた残紙(前141~296)や木簡の雰囲気があり、書体が確立する前のカタチは甲骨文字に似て 神の意志に一番近いものだと思います。 文字を覚えたての幼児の文字にも 同じような神聖さを感じます。
陸機は三国時代の呉から西晋時代にかけて活躍した武将・政治家で 文学者としても一流でした。お祖父さんの陸遜は丞相を勤めた程の名門の出で、武将として備えるべき仁・信・智・勇・厳の五徳を有し、身の丈七尺 その声鐘のように響き渡ったと言います。
国を正して世の中を救うと言う大志を持っていましたが、結局 信用して仕えていた司馬頴が部下の諌言により、陸機を逮捕、処刑してしまいました。その上
弟の陸雲や二人の息子まで殺され、陸家は断絶してしまいます。享年43歳。
高潔な人でないと書けない平復帖は 不思議な魅力を持った書ですが、書作のヒントも多く蔵しているように思います。
私も一度は書きたくて、1981年の日展に出品しました。周囲の反応は今一つで、禿筆をこすりつけるような筆法を駆使して 書きました。清書にこぎつけるまでは すべて、反故の山になるほどの悪戦苦闘でした。
そして、今再び「平復帖」に挑戦して 作品を創り続けています。40年前に見えなかったものが 齢を重ねて発見できることが あるのですね。
2020年(令和2年)9月22日 秋分 旧暦8月6日 NO165
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音成馥郁 (金曜日, 28 5月 2021 11:10)
初めて陸機に挑戦しています。
なにか資料が欲しくて探していました、背景等もわかり理解するのに助かりました。