書道にも必要な「貧幸時代」

「文藝春秋」6月号に脚本家・倉本聰さんの「老人よ、電気を消して<貧幸>に戻ろう!」が掲載されました。コロナ、ウクライナ侵攻と未曽有の出来事が起きて、人々がどのように生きたら良いのか、どう考えたら良いのかと 思いあぐねていた時、タイミングよく提示してくれたように思います。

私はいつもの癖で「貧幸」を「書道」に置き換えて読みました。

私が書道を始めた60年前は、周囲はまだ純粋で余分なチリが少なかった時代でした。

カルチャーセンターなどの「書道教室」が盛んになり、公募展システムが軌道に乗って来ると、書道を習う人が増え、「書道の先生」は豊かになりました。

昔は真面目な書論を論じ合っていた友人も 金回りがよくなってくると「株を買う話や女を買う話」に変わって来る。「書には精神性が大事だ」と主張する私に「貴方はセイシンで書いたらいい、自分は技術で書く」と豪語。その友人の将来の姿が見えた気がしてその後、訣別しました。年月は非情なもので、作品と言う形で鑑のように 書き手の品性が出てしまいます。

我々のように還暦を過ぎた人間には 人格の修正は無理ですが、これから書道を始めようと思っている若い人たちは 筆技を磨くのと同じ位、寧ろそれ以上の割合で「社会に貢献するには どうしたらよいか」を軸に人格を磨く努力を してほしいと思います。

倉本聰さんが北海道に開いた「富良野塾」の玄関には「あなたは文明に麻痺していませんか」で始まる8行の石碑がある。メモするような気持で書いたのが上の作品です。ところが肝心の「あなたは感動を忘れていませんか」(7行目)をぬかしてしまいました。

書道に関わる人間は「感動」が大切です。感動する心がないと良い作品は書けません。「感動」の大敵がは金、飽食、贅沢、傲慢です。

無駄なものを そぎ落として スリムになった時、路傍に咲く小草や夕焼けに感動し、深いものが見えて来るのだと思います。

 

  2022年(令和4年)6月6日(月)芒種 旧暦5月8日 NO205