天声人語

10月1日から「天声人語」の執筆陣が替わりました。戦後15人の執筆者は 全員男性でしたが、今回初めて「郷冨佐子さん」と言う女性が加わりました。

天声人語は 私が新聞の読者になった二十代の頃から馴染みのコラムで「毎日豊富な話題を提供してくれる」ものだと感心して読んだものです。

603字を六つの段落に分け、テーマは執筆の前夜か当日に決めて書くようです。

 

「天に声あり、人をして語らしむ」が「天声人語」の語源だそうですが、明治37年1月5日が鳥居素川の筆によるのが第一回、長谷川如是閑や荒垣秀雄が書き継いで現在に至ります。若い頃の私は荒垣秀雄や深代淳郎を読んでいたことになります。

「荒垣秀雄」(1903~1989)は17年半執筆し、「深代淳郎」(ふかしろじゅんろう・1929~1975)は46歳の若さで急逝しましたが、「新聞史上最高」と言われる名物コラムニスト。たった3年弱の執筆でしたが、私に与えた影響は大きいです。世間に乱れ飛ぶ情報について それが真実か欺瞞かを見極めるのに 天声人語は恰好の「リトマス試験紙」の役目をしてくれました。

 

耳や目から入って来る情報を自分の頭の回路を通して紙に落とす、それが書だ。とは先人の言葉ですが、情報や知識を解りやすく解析して どういう風に書くかを考えて書くのが書家の仕事です。文章を練る文筆家の仕事と似ています。

良い作品を書く人は文章も上手い。敬愛する先輩で古谷蒼韻先生、山内観先生は歯切れの良い文と作品を書いておられました。書作品は点画のリズムが 自然に流れていると名作になり、何を言っているのかわからないような書は駄作になる。ラジオから流れて来る音声も 無駄のない言葉やリズムは聞きやすいですが、雑音にしか聞こえない語り手の話は不愉快です。文章も書も音声もよく似ています。

 

 2022年(令和4年)10月8日(土)寒露 旧暦9月13日 No213