もっと簡素にならないか

多くの芸術家が呪文のように「もっと簡素にならないか」と唱えていたことを聞きながら、勉強してきたように思います。

書の先達もこの命題を抱えて 筆技を研いで来られたと思う。五十年も昔のこと

ある展覧会で「日頃からよく勉強している人は作品に表れている」と教えられて作品鑑賞の手引きにしていましたが、「確かさと深さ」を追求して、「卒意の書」の心境に達した作家の作品に接して、私の脳に衝撃が走りました。

書壇に居た頃の長興会の大先輩・吉川蕉仙先生の作品「朋心合力」です。

第六十七回現代書道に十人展(朝日新聞社)出品作です。

美しいものに出会うと感動し、「書きたい」衝動に駆られる。こうして習作を重ねたのが、掲出の拙作群です。「もっと簡素にならないか」と言いながら。

人間は未熟な時は、無駄なことが多く、修練を重ねることによって 少しずつ余分なものが削ぎ落とされて 簡素になっていく。

邪念に取りつかれていると、贅肉をつけたまま齢をとっていく。作品も生き方も同じ事だと自戒しながら、日常生活を送っています。

 

一流の画家や陶芸家、小説家など書を習わない人の書の色紙を見て、バランスのとれた美しさは何故だろうと不思議です。普段からより良いものを作ろうと修練しているのだから当たり前の事ですが、名人たちの「間」の取り方は絶妙です。

未熟な頃の私の作品を見ると、空間の取り方がデタラメで、点画の処理の仕方も無知なままです。今になって思えば もっと工夫があったものと思っています。

 

 2023年(令和5年)2月19日(日)雨水 旧暦1月29日 NO222